ウツギの日々趣味日記

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【感想】江戸東京博物館特別展「江戸ものづくり列伝」がネット配信【ニコニコ美術館】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染拡大防止のため中止や延期、無観客での開催というイベントが増えています。

博物館や美術館も臨時休館をするところが増えました。せっかく準備した展覧会の開催期間が短くなってしまうのは悲しい事です。この先の状況次第では、休館の期間がさらに伸びるかもしれません。最近ではインターネットで図録の通販もできますが、やっぱり足が運べるなら学芸員さんの作った順路で見て回って、じっくり眺めたいもの・・・。

そんな中、ニコニコ生放送の公式チャンネルの一つである「ニコニコ美術館」がこんな動きに出ました。

originalnews.nico

ニコニコ美術館ではもともと、専門家による解説付きで展示会場を歩くという番組をやっています。今回、そのニコニコ美術館で臨時休館で見れなくなってしまった展覧会を取り扱えないか、という提案を出したのです。しかも、番組制作・配信費用はドワンゴが負担するとのこと。随分と大胆な事を言い出すなと見ていたのですが、その提案に早速乗った博物館がありました。

www.edo-tokyo-museum.or.jp

江戸東京博物館です。江戸・東京の歴史や文化を紹介している博物館で、当時の暮らしを知ることができます。私も何回か行ったことがあるんですが、町の様子を生き生きと表現したジオラマや原寸大のレプリカなどもあり、昔の暮らしが近くに感じられるとても良い博物館でした。

常設展も激しくおすすめしたい博物館なのですが、2月からは特別展「江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-」が開催中らしく、業界では知る人ぞ知るという職人の作品や、マニアックなコレクションが展示されています。

この特別展が今、臨時休館で見れないという事で、その展示内容の一部がニコニコ美術館で放送されることになったのです。しかも、開催期間の4月5日までは誰でも放送のアーカイブが見れる!

ありがとう、ニコニコ美術館!ありがとう、江戸東京博物館!

ということで、今回は感謝と応援もかねて、放送を見た感想を書きたいと思います。

 「江戸ものづくり列伝」

live2.nicovideo.jp

www.edo-tokyo-museum.or.jp

ものづくりという事で、工芸品が多めの展覧会。中でも私がテンションが上がったのは、琳派の画家・酒井抱一が下絵を担当したという蒔絵師・原羊遊斎の作品「蔓梅擬目白蒔絵軸盆」の展示です。

「蔓梅擬目白蒔絵軸盆」 コラボ作品に胸躍る

酒井抱一は琳派に関する功績が有名すぎるのもあって、なかなか俳人としての側面や他の職人との交流がピックアップされないんですよね。 私自身、酒井抱一の絵は琳派の展覧会で見てから好きなんですが、展示を見て作品を好きになったら調べる――みたいな鑑賞の仕方をしてることもあって、なかなか関わった作品全部を把握しようというところまでいかず、最近になってやっと関連書籍を読もうかと重い腰を上げたところでした。そんな中、こういう展示を江戸東京博物館がやってくれるのが本当に嬉しいです。

この作品は原羊遊斎のコーナーに展示されている作品で、原羊遊斎の手がける蒔絵の美しさもさることながら、当時の様々な交流や作品の作られ方が窺い知れるという意味でも興味深い作品です。他にも原羊遊斎は「雪華図説」で有名な土井家の御用蒔絵師ということもあって、雪の結晶を彩った印籠を作っており、この印籠が展示されている様子も紹介されていました。しかも、「雪華図説」も一緒に展示されてます!科学と美術のコラボがここに!

コラボという意味では別コーナーの展示になりますが、 柴田是真・菊池容斎・鈴木守一・加納夏雄の合作である「小塚原図」も面白かったです。なんでこんなものを作ろうと思ったのかすごく気になります。

イタリアからやってきたバルディコレクション

www.sankei.com

他には、展示の最初にあったバルディコレクションが印象的です。バルディ伯爵は明治時代に日本を訪れたヨーロッパの貴族で、刀の拵え等を中心に日本の工芸品を買い漁った好事家でした。

今回はその中で選りすぐりのコレクションをイタリアのベニス東洋美術館から取り寄せ展示しているとのことですが、大変趣味の良いコレクションで、正直それ以外の別に選りすぐりでないコレクションの方も気になる展示内容でした。最初に展示されている本人の肖像画が微笑ましいです。バルディコレクションの事は全く知らなかったので、この機会にちょっと調べてみたいです。

その中でも歴史的に興味深いのは「梨子地藤巴立葵紋散松竹藤文蒔絵行器」でしょうか。宝永時代の婚礼道具はほとんど残っておらず、非常に貴重な資料だそうです。福岡市博物館と福岡市美術館に同じ時代のものがあり時代の同定に役立ったとか*1、梨子地は非常に高価で、時代が下ると節約の為にむらのある梨子地である"村梨子地"が使われるようになってきた、という話も面白かったです。美術的には、蒔絵を施した鞘もたまりませんでした。

生放送ならではの強みと弱み

あとは、ジオラマやミニチュア作品を見るのが好きなので、小林礫斎の手がけるミニチュア作品の展示はとても楽しく拝見しました。数センチや数ミリという作品を思いっきり拡大して見れるのはカメラ撮影ならではですね。

また、三浦乾也の章は、軍艦を作ったエピソードや陶芸作家になった経緯も面白かったです。コメントには「焼き物は化学だから」とか、「ダヴィンチみたいな人だ」というものもあって、頷きながら視聴していました。

コメントの中には何らかの芸術家のファンだとか、工芸品に詳しい方がいらしたみたいで、出てきた言葉を調べながら視聴するのもとても楽しかったです。特に刀剣は全く無知なので用語が初見だったりという事もありました。

また、今回の放送を通して、結構同じ趣味の人がいるんだなというのも分かって嬉しかったです。同じ展覧会に大勢で詰めかけて自由に語り合うという機会はほとんどありませんし、こういうのも生放送ならではかもしれません。

一方で、生放送の限界も感じました。柴田是真の章では色味などカメラでは分からない部分もあり、トリックアートだと説明されてもピンと来ない作品も。100%の作品鑑賞をしたいならやはり肉眼で見るのが一番のようです。でもこれは、むしろ良い事かもしれません。ネットで見たから良いやと博物館から足が遠のく事がない、ということですし。

ともかく、充実の1時間半でした。蒔絵や刀関連の展示物が多いので、刀剣や蒔絵が好きな人にもオススメです。・・・いや、かえって足を運べないことにモヤモヤするかもしれませんが!

最後に

ch.nicovideo.jp

私は美術館・博物館に行くのが好きなので、こういう活動は応援していきたいと思い今回記事にしてみました。

ニコニコ美術館では今後も休館中の博物館や美術館の展覧会を放送するそうで、今のところ「三菱一号館美術館(3月12日放送)」「東洋陶磁美術館(3月15日放送)」「東京国立近代美術館(3月18日放送)の展示が放送されています。

明日20日には「大宮盆栽美術館」の特別展も放送される予定で、問い合わせ件数が多い事もあって今後も放送が増える可能性があるそうです。放送してくれる博物館・美術館関係者やニコニコ美術館スタッフの方には感謝しかありません。早く日常が戻り、美術館や博物館が通常通り開館できるようになって欲しいですね。

 

(2020.03.28 「梨子地藤巴立葵紋散松竹藤文蒔絵行器」の文について、「同じものがあり時代の同定に役立った」→「同じ時代のものがあり時代の同定に役立った」に表現修正。福岡市美術館の事も追加。また、調べている時に見つけた福岡市博物館の記事を備忘録かねて追加。)