ウツギの日々趣味日記

ゲーム・アニメ・音楽・読書など。趣味のことをつらつらと。

私のアニメ見聞録 #2 「つみきのいえ」

第2回は短編アニメの見聞録。今後、映画や短編の記事も書く機会があるかと思います。今回はとりあえずはジャブから。

(※今回は内容に関して重大なネタバレがあります。未視聴の方はご注意ください) 

 

つみきのいえ

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第2回目は「つみきのいえ」、12分ほどのオリジナル短編アニメです。2008年に発表され、日本映画ではじめてアカデミー短編アニメ賞を受賞しました。私自身はごく最近、ナレーション無しバージョンのみ視聴しています。こういうのに台詞がつくのって蛇足な気がしてしまって。

ストーリーとしては至極単純で、レンガを積み上げながら海上でのんびり暮らしていたおじいさんが、ふとしたきっかけで過去を振り返るというものです。シンプルながら、テーマの表現方法や構成力が素晴らしく、切ない気分にさせてくれる作品でした。

意識の底に沈んだ思い出、題材の表現方法に惹かれる

水の中に落としたキセルを追いかけ、水底に沈んだ階下にやってきたおじいさん。まだ生活感の残る階下の様子に、ふと昔を思い出します。古びたベットには世話をしてもらうおばあさんの姿が。彼女はいま、おじいさんの傍らにはいません。

そうしておじいさんは、蓋をしたはずの階下へ、階下へと更に潜っていき、過去を遡っていくことになります。まるでそれは、積み上げてきたおじいさんの「人生」を遡っていくようでもあります。

この作品は短い時間の中に、そうしたさりげない比喩表現がたくさん仕込まれています。「水に潜り」「蓋を開け」「水底に沈んだ光景を見つめる」その一つ一つが象徴的です。

ただ過去を振り返るだけの行為をこういう風に幻想的に表現できること、ただ音と絵だけの世界で完結させていることが驚きでした。1つ1つの場面で「なるほどそういう事があったのか」という小さな驚きがあり、切なさがあり、12分間ギチギチに詰め込まれたストーリーを、ふわっと見せる技量にも感服しました。

この作品はそうした、さりげないけれども奥深い表現が魅力です。

戻ってきた「日常」が少し変わる

振り返るという一つのイベントを通して、少しだけおじいさんの日常にも変化が起こります。

こういう「最初に日常の描写があって、何かイベントあって後の日常が少し変わる」というのはストーリーの定型ですけど、このアニメは台詞がないだけに、おじいさんの変化も推し量るしかありません。そういう「想像力に任せる」もどかしさと面白さ、この種のアニメの醍醐味も存分に堪能できる作品です。

ある意味、教科書的な作品

ただこの作品、一般的に評価されるかと思うと微妙なところだと思います。子ども向けショートアニメのような趣と言いましょうか。夕方にテレビをつけたらやっていたので、ぼけーっと眺めるというような作品です。のめりこんで見るわけでも、深い感動があるわけでもありません。

要点は分かるけれども薄味ですし、ふわっとはじまってふわっと終わりますし、大きな山谷は描かれません。語弊を恐れず書くのであれば、教科書的で平坦な、基本にとことん忠実な作品でもあります。

でも、こういうスタンダードな作品を出せる人ってなかなかいないんです。変なところで間延びしてしまったり、題材に偏りが出たり、製作者の癖が出てしまったり。

殊に短編作品は、絶対的な時間の制約があって、見た目よりはるかに作るのが難しいものです。一時期アホみたいにこういう台詞無しの短編アニメを見まくっていた時期があったのですが(作品名は思い出せない)、変な所で間延びしたり何がやりたいのか分からないまま終わったりと、多くは時間配分と構成に苦戦している様子でした。

そんな中、この作品は12分という短い時間で題材を消化しきっています。いつ誰が見ても内容が分かり、ちょっとした感動がある。そういうところが多くの賞で評価されたのかもしれません。

もしこの作品を評価しない方がいても、決して嘆く事はないと私は思います。それはつまり、こういう基本ができているアニメが身の周りに、ごく当たり前のように溢れかえっているということなのですから。