MSIの興奮も冷めやらないこの頃、2018年SummerSplitがスタートしました。
期待の持てる選手の登場や、RNGの初優勝。MSIでは次のプロシーンに期待が持てるような展開が沢山あり、私は今回のSummerSplit観戦を心待ちにしていました。
しかし実際始まってみたら、なんということでしょう。なんか変なバンピックになってるし、良く分からない動きしてるし、むちゃくちゃな試合展開だし。パッチ8.8から今までの間になんでこんな事になってんの!?
という訳で今回はこの困惑を記録すべく、パッチ8.11におけるプロシーンを観戦した感想と、どうしてこんなメタになってしまったのか、その考察を書いてみました。
読めないバンピック、分からない試合展開
つべこべ言わずまずはこれを見やがってください。
LCKのSummerSplit・Week1、BBQvsMVPのgame1。動画時間15分くらいになるとバンピックが一通り出揃うことになりますが、この試合はまさに、8.11を象徴するバンピックになっています。
しばらくMSIの決勝戦を見返してニヤニヤしていた私は、この8.11が意味するところをこの時まだ知りません。夏が始まるなりいきなり変貌したバンピックに目を疑いました。
まずなんだよヌヌ・カーサスって!
ルルがADC!?タリックがMID!?
MIDとJGが森とレーンを巡回する奇妙な光景
凄まじい変貌を遂げたのはバンピックばかりではありません。その試合進行にも大きな変化が見られました。
試合中、タリックは延々とマスター・イーのジャングリングを手伝い、時々レーンに戻ってはマスター・イーと共にウェーブを押し、また森に帰りを繰り返しています。試合開始5分には対面のカーサスとのレベル差は3。CS差は50近く。
しかしミッドレーンでは一向にダメージトレードが起きません。対面のヌヌ・カーサスも同じように森を探検しています。レーン戦とは一体。
困惑のまま11分、森で両者は衝突。タリックのRに守られたマスター・イーが3キル獲得し、見事試合は崩壊するわけですが・・・。
この試合は結局、MIDで何が起こっているのか、なんでJGとMIDのデュオレーンみたいになってるのか、ボットレーンはどうしてしまったのか。最後までちょっと頭が追いつきませんでした。
ボットレーンからマークスマンが消えた
LPLではこんな試合もありました。動画時間28分頃、大体のバンピックが出揃いますが、見てくださいよ右側を!
モルデカイザー・ブラッドミア・シヴァーナ・パイク・ガングプランク!
なにこのチーム!マークスマンがいねえ!
この試合ではカイ=サをピックしたIG側が勝利するわけですが(というよりこれはMIDにモルデカイザーを置くという選択が良くなかった、という感じでしたが)、このあと、他のチームでもモルデカイザーをピックする場面を見かける事になります。
いや、モルデカイザーは個人的に好きなチャンピオンです。スキンも1個持っていますし、モルデカイザーADCなる単語も知っています。一回生で見てみたいと思った時期もありましたよ。ありましたけど!
当然のように試されている現状は異常です。そんなプロシーンでぽんぽん見かけるようなタイプのチャンピオンじゃねえだろう!なんかこう、もっとニッチなポジションのはずじゃないか、モルデカイザーって!一体ボットレーンに何が!?
リーグ・オブ・ファイターの到来?力こそ物を言う世界
同じ試合のGame3には、ヤスオADCまで登場しやがりました。そしてなんと、ザヤ・ラカンに対して勝利してしまいます。
この試合では、長らく見かけなかったエイトロックスの目覚しい活躍やムンドの登場、ゾーイの再臨も気になりましたが、それよりなにより、力で踏み潰して進むIGが非常に印象に残る試合内容でした。
他にも色々試合を見ましたが、とにかくボットレーンでマークスマンを見かけない。かろうじて見かけるのはルシアンやエズリアル、カイ=サくらいなもの。今まで見かけていたケイトリン・ザヤ・トリスターナなどはほとんど見かけません。出てきたとしても試合展開が早すぎて育てるのが間に合わない・・・そんな印象が強いです。
また、MID&JGのコンビで片方のチャンピオンを育てるスタイルが増えた所為か、その対応力が高く、Wで一体を確実に無力化できるルルの評価が急に上がってきています*1。彼女はMIDだけでなく、ADCとして顔を出す事も。タリヤJGが登場してきたのも気になります。
短い試合時間、減った読み合い
他にも大きな変化がありました。まず平均試合時間に凄まじい変化があり、大体は20分台で終わってしまいます。上手くチームの作戦が嵌れば、エルダードラゴンを拝む事はまずない。そんな試合が相次ぎました。(参考: Lol esport tournaments list - Games of legends)(game duration が平均試合時間。KRでは春と夏を比較すると38分→31分台で7分も平均時間が短縮されている)
試合時間が短いのでヘラルドが重視される一方、中盤のバロン・ドラゴン周りの読み合いが減ります。それどころか、バロンなんか無視してタワー割ろうぜ!という展開も見たくらいでした。バロン前の攻防が好きな身としては悲しい展開に。
また、レーンにミニオンを押し付けてなんぼというチャンピオンが強くなりました。後半の集団戦重視のチャンピオンや、レイトゲームキャリーはすっかり鳴りを潜めています。
EU LCSではこんなピックもありました。ハイマーディンガーとフィドルスティックで延々とレーンプッシュをしていくこのコンビは非常に強力です。この試合では、カイ=サ、ソラカ側が全くレーン有利が取れないままボットレーン戦が終わっていました。
他にもADCに収まるのは必ずしもADチャンピオンではなく、カルマ・ラックスなど、メイジ系チャンピオンさえADCの位置に置かれる事があるのが今のボットレーンです。レーン戦だけでなく、試合全体の印象としても「押し付け合い」「潰しあい」そんな印象を受けます。
まあ試合時間が短いのは良い。MIDがイーを育てて射出するみたいなスタイルも面白いしマークスマン以外がボットレーンを闊歩しているのも新鮮です。
でも、やっぱりMIDには常にダメージを出して欲しいし、もっとレーンから試合を動かして欲しい。もっとマクロの面白い試合や壮絶な読み合いが見たい。なによりRNG/Uzi選手のすごい活躍を見た直後に、ADC中心の集団戦がぶっ壊される展開はなかなかくるものがあります。
一体、LOLのメタで何が起こっているんでしょうか。
一体何が起こったのか?
その背景には、ライアットゲームズのこんな考えがあるようです。
長々と書いてありますが、要するに「同じようなマークスマン・同じようなボットレーン・同じようなビルドばかりでバリエーションが出ない。もっと変化を付けたい」という訳です。
確かに、今までボットレーンといえば変化に乏しいレーンでした。新ルーンが発表されてのちも、決まったチャンピオン、決まったビルドがいつも優勢で、変化を付けられるのはサポートくらい。
戦術の幅は確かに狭かったでしょう。ここにバリエーションを付けられたら、楽しくなりそうではあります。そして実際、その狙い自体は成功してもいます。
パッチ8.10:苦しくなったJGの行く先
しかし、その成功は様々な犠牲の上に成り立ったものでした。
まずパッチノート8.10(パッチノート 8.10 | League of Legends)では、ジャングルの大幅変更が行われました。
序盤にジャングルモンスターから獲得できる経験値が大幅減少。味方側の森を狩るだけでは、さっさとレベル3になってガンクする事が難しくなりました。
更に、スカトルを倒した時の経験値が大幅に上昇・マナがたくさん回復するようになりました。より早いレベルアップにはスカトルが必須。そのため、JGに楽にスカトルを取らせてあげるためにレーンプッシュをする事が非常に重要になりました。
パッチノートによるとこの変更は「序盤戦のプレッシャーを低下させるための調整」「敵ジャングラーからリードするための新たな方法として、リフトスカトルの価値を向上」とのこと。しかし、スカトルが重要になったことでレーナーは別のプレッシャーを受ける事になり、序盤が辛くなったJGの行き着く先もまた「大人しくパッチノートに従う」ではありませんでした。
序盤やることがなくなったなら新たな仕事を創出すれば良いじゃない。このパッチでは同時にこんな変更がされています。
削除減速チャンピオンのレベルがモンスターよりも高い場合に、1レベル差ごとに経験値が5%減少することはなくなりました
つまり、序盤から誰よりも早くファームしてもペナルティが付かなくなったのです。
「じゃあMIDに手伝ってもらってさっさと育っちまおう」――こうしてMIDとJGのデュオレーンが結成。いっそ片方のCSを犠牲にしてでも「敵より早くジャングルクリアしてスカトルを目指し」「ゴールドを集め」「レベルを早く上げる」。そんな戦術が生まれてしまったのだと思います。タリック&イーのコンビはその代表例でしょう(League of Legends: FOTM Report: Master Yi + Taric Power Farm | NERFPLZ.LOL)。
この行為はファンネリングとも呼ばれ、SummerSplitが始まる前から注目を集めたピックでした。
8.11の到来:マークスマンのナーフ、スカトルの重要度が更に上昇
それでもパッチ8.10の段階では、そこまで壊れてはいなかったかもしれません。メタに決定的な変化をもたらしたのは8.11です。
まず、ADCとしてよく使われるマークスマンの基本ステータスが減少。更にインフィニティーエッジをはじめとしたADC関連の装備が大幅ナーフ。購入に必要なゴールドが増え、効果が変更され、理不尽なダメージを叩き出せなくなりました。更にキーストーン「フリットフットワーク」のナーフで回復もしづらくなります。
このことで今までクリティカルビルドが主体・遅めの装備完成だったマークスマンは、ただでさえゲームスピードが上がったLOL内で軒並み置物になってしまい、代わりに早めに殴りあいに参加できるファイターがボットレーンに出現するようになったのです。
更に、よりにもよってこのパッチではスカトルのクールダウンが延長される事になります。これにより苦しかったスカトルの取り合いが更に過酷に。「じゃあMIDに手伝ってもらってさっさと育っちまおう」案がいよいよ現実味を帯びる事になります。
スカトルの取り合いはもはやミニ目標などではありません、ジャングルの優劣を決める第一目標です。この事でサイドレーンも更に「レーンを押したい→殴り合いの強い、ハラスの強いチャンピオンにする」方向に加速していく事になります。
更には以前のパッチでバロン・エルダードラゴンが強化された事も手伝って、ゲームスピードは格段に上がる事になりました。こうして、冗談みたいな戦術が当たり前のように試されるメタが完成したのです。
カオスを推理する楽しみはあるけど
以上は各所の意見も読んだ上で出した私個人の結論ですが、まだ100%完璧な解釈とも言えません。ファンネリング戦術が採用されない事もありますし、ヴァルスをはじめとしてマークスマンもいくらか試されています。
パッチ8.11にはそうした混沌とした面白さがあります。プロの間でも未だ試行錯誤の段階という感じで、新しいバンピックを考案したり、各チームの狙いを推理する楽しさはありました。正直、ピックの幅広さと推理をする面白さという意味では、私がプロシーンを観戦した中では一番なのではないかと思います。
けれども、このゲームをやりたいかと言うと少し疑問です。上でも言及したように、この面白さは多くの犠牲の上に成り立っています。メタの変化では付き物とはいえ、今回は犠牲が大きすぎるように思います。
そして気になるのが、大幅な変更によりプレイヤーが置いてけぼりを食らっている点です。観戦する分には困惑するだけで済みます。しかし、実際にこれらのメタに追いつくには、新たなチャンピオンを覚え、アイテムビルドを覚え、何より新たな味方と上手く連携していかなければなりません。
実際「変更が多すぎて頭が追いつかない」「何が起きてるか分からない」――各所ではこんな意見も見かけました。理解できたとして、今までのADCを愛していたプレイヤーが、この現状を受け入れられるでしょうか。
私もこのメタが受け入れられたかと言うと微妙なところです。この変更を見た時は「ライアットの奴本当にADCをバンしやがった!」と思ったくらいですし(10-thoughts-going-paris)。マークスマンを軸とした集団戦に魅力を感じていただけに、複雑な心境です。
ライアットゲームズは現状の改善を明言
幸いにもライアットゲームズは現状からの改善のため、いくつかの大幅な修正を検討しているようです。海外の本家コミュニティボードでは、現状の考察と今後のアップデート方針についてライアターより言及があります。
これによると8.13でいくつかのADCのバフ、クリティカルアイテムの改善をしつつ、今の新しい多様性も維持したい、とのこと。また、タリック&イーなどのファンネリングについても対策を検討しているようです。
しかしパッチ8.12ではシールドの大幅ナーフもありました。このとんでもない方向に進んだ軌道をどう修正するのか。まだまだカオスな現状は続きそうです。
最後に
色々ネガティブな事も書きましたが、観戦自体はものすごく面白いです。私は「徹底的にLOLがぶっ壊れる」メタを経験するのが初めてなので、この状況をプロがどう攻略するか毎試合ワクワクしながら見ています。
もしかしたらこの状況でマークスマンを活かすチームが出るかも!とか、高望みしすぎでしょうか。
-
FNC vs. S04 - EU LCS Week 1 Day 2 Match Highlights (Summer 2018) - YouTube
- G2 vs. SPY - EU LCS Week 1 Day 2 Match Highlights (Summer 2018) - YouTube
スタンダードなマークスマンの形ももちろんですが、EUではG2やFNCがMIDカイ=サを出してファンネリングしました。ああいう新しいマークスマンの活かし方が出てきても良いと思うんですよね。
それと、以前からBjergsen選手のアサシンピックを見たかったので、生でイレリアピックを見れたのは嬉しかったです。この調子でどんどんアサシンが出てきて欲しい。
今のメタが上手く軌道修正されたら、MIDのピックがアサシン寄りに変化していくのではないかなと密かに期待していますが・・・。どうなるんでしょうね。
参考にした関連記事
パッチ8.11把握にあたって読んだ記事をまとめてみました。上記の記事内で紹介した記事もまとめて掲載しています。英語が多いですが、だいたい機械翻訳でなんとかなります。
公式サイトより
この記事については翻訳記事もあります。
- (Game 4 Broke - LoLの情報ブログ: 8.11実装直後のファンネリングとスノーボールについての考え)
- (Game 4 Broke - LoLの情報ブログ: 8.12予定だったファイターアイテム、クリティカルADC、ゴールドファンネリング)。
メタに関する言及があるサイト
- League of Legends: Weird Picks #99: Taliyah Jungle | NERFPLZ.LOL
- Will This be the End of the EU Meta? Karthus, Nunu, Master Yi Picked In the LCK Summer Split - Inven Global
- Vitality embraces chaos by locking in bot lane Heimerdinger and Fiddlesticks to beat Splyce | Dot Esports
考察記事
- lol-cla | パッチ8.10からどう変わった?最序盤のジャングリング解説
- lol-cla | Botレーンは誰のもの?パッチ8.11のメタを読み解く
- lol-cla | 8.11Newメタの一端に迫る/ミッドサポート編
貴重な日本語でのメタ解説。どういう対応策があるの?というところにまで踏み込んで解説しています。トピックごとに記事が分かれていて読みやすかったです。
*1:(だと思うのですが実際は他にどんな要素が絡んでいるんでしょう?)